様々な会社で「イノベーション」をテーマに掲げているのを目にします。多くの場合、「他にない新しい事業、商品、サービス」を生み出すことを目指しているのでしょう。
ここでは、アイデアを出すためのフレームワークの中でも、簡単かつ効率的なアイデアの出し方を紹介します。
新しいアイデアってどうやったら出てくるのか?と悩んでいる方にとって、歩みを進めるための手がかりになれば嬉しいです。
なぜアイデアを出すためにフレームワークを使うべきなのか
私は保険会社で日常業務をこなしていました。そんなある日、突然「イノベーション」の波は押し寄せてきました。これまでイノベーションはおろか商品開発などとも無縁だった私は、ある日会社から「イノベーションを起こせ」と言われたのです。同じような経験をした人もいるのではないでしょうか。
当初は、同じく素人のみのチームメンバーたちで集まり、がむしゃらに(無秩序に)思いついたアイデアを出し合っていきました。最初は、新しい仕事に小さな興奮を覚えながら議論は踊りました。
しかし、すぐに壁にあたります。ホワイトボードにはありきたりと思えるアイデアばかりが並び、その数も少ないものでした。
それ以上どれだけ考えても追加のアイデアは思いつけず、結果として数少ないありきたりなアイデアから、やむを得ず一つを選んで進めるという選択をしました。もちろんこのアイデアは実現していません。
このとき、私たちはどのようにしていたら良かったのでしょうか。
実は、新しいアイデアを考え出すために整理された効率的・効果的な方法がいくつか存在します。もしそのような方法を使っていたら当時の失敗は無かったかもしれません。
当時の私たちは「新しいアイデアは突然天から授かる」と考えているのと同じ状態でした。
この記事では、当時の私のような失敗を起こさないために、とても簡単に覚えて実践できるフレームワークとして5W1H法を説明します。
5W1H法は複数人でのワークショップでもすぐにメンバーに理解してもらえるアイデアの出し方です。ぜひ最初に覚えてください。
アイデアを出すフレームワーク 5W1H法
5W1Hは、人に何かを伝える際に意識すべきフレームワークとして広く知られています。
ですが、この5W1Hが、目新しいアイデアを考え出すための簡単かつ効果的なフレームワークでもあることはあまり知られていません。
この方法は多くの方に馴染みのある5W1Hをベースにしているため、誰でもすぐにやり方を覚え、実践することができるのが大きな特徴と言えます。
また、一つの方法のように呼んでいますが、実際には6つの異なる発想法をまとめたものと言えます。
よって、5W1H法を覚えておくだけでアイデアを出す際に複数のアプローチが可能となり、アイデアの数が少なくて困ることはほとんどなります。
考え方:
(1)Why:なぜ?を変える
(2)Who:だれが?を変える
(3)Where:どこで?を変える
(4)When:いつ?を変える
(5)What:なにを?を変える
(6)How:どのように?を変える
5W1H法は、何か既存の商品・サービスをベースとして、それをイノベーティブに変化させる場合に有益です。ここでは例として、スマートフォンをベースに考えてみましょう。
テーマ:新しいスマートフォンのアイデアを出す
(1)Why:なぜ?を変えてアイデアを出す
全ての商品、サービスには必ずその存在理由(価値)があるはずです。この存在理由を変えることは、大きなイノベーションにつながります。
まず、スマートフォンはなぜユーザーから求められているのかを考えます。思いつく限り、書き出してみましょう。
・SNSをしたいから
・Webを見たいから
・ゲームをやりたいから
・写真を撮りたいから
・電話をしたいから
全て書き出せたら、ここでもう一歩深く考えてみましょう。欲求などの「感情」に踏み込んだ「なぜ?」を考えてください。
・SNSをしたいから → 人とつながる安心感を得られるから
素晴らしい体験を発信して優越感を得られるから
・Webを見たいから → 最新の情報を得ることで、知識欲を満たしたいから
・ゲームをやりたいから → ワクワク感、ドキドキ感を感じたい
【※】深く考えすぎると、最後は全て「幸せになるため」に帰結してしまいます。感情を表す言葉が出てきたところで止めるぐらいがちょうど良いです。
さて、ここまでに出てきた感情は既存のスマートフォンが持つ価値だと言えます。
よって、ここまでに出てこなかった感情とスマートフォンを組み合わせることで、これまでにない価値を持ったスマートフォンを考え出すことができます。
まずは、出てきていない感情とスマートフォンを単純に掛け合わせて書き出します。
・信頼 × スマートフォン
・愛情 × 〃
・怒り × 〃
・哀愁 × 〃
これでアイデアを考えるベースが出来上がりました。
それぞれを満たすスマートフォンはどんなものなのかを考えることで、ありきたりではない新しいアイデアを生むことができます。
感情を入れ替えるだけで、たくさんのバリエーションができるのもメリットですね。
(2)Who:だれが?を変えてアイデアを出す
既存のスマートフォンは主にどんなユーザーを想定しているのかを書き出します。
・流行に敏感で友達との繋がりを大切にしている女子高生
・テクノロジーやビジネスに興味があるミレニアル世代の会社員
・パソコンなどのデジタル機器に苦手意識がある高齢者
次に、前の作業では挙がらなかった、これまでに想定されていないターゲットとスマートフォンを掛け合わせて書き出します。
このとき、前に挙げたターゲットをベースにして、要素を一つ変えてみると、簡単に書き出していくことができます。
・友達を多く作らず、受験勉強だけに関心がある男子高校生 × スマートフォン
・アニメにしか興味がないミレニアル世代の会社員 × スマートフォン
・ITリテラシーが非常に高い高齢者 × スマートフォン
変更する要素の例としては、
・年齢
・性別
・地域
・職業
・性格
・価値観
・趣味
などがあります。
これらを変えてみることで無数に新たなターゲットを定義できます。あとはWhyと同じように、これを満たすスマートフォンを考えていきます。
(3)Where:どこで?を変えてアイデアを出す
既存のその商品は、どこで使用されることが想定されているのでしょうか。スマートフォンを例にそれを書き出してみましょう。
・電車の中
・カフェ
・リビング
・会社
・学校
思いつく限りを書き出したら、それ以外の普通は想定されていない場所とスマートフォンを掛け合わせて書き出します。
・飛行機内 × スマートフォン
・ラーメン屋 × 〃
・キッチン × 〃
・図書館 × 〃
これらの場所で欲しくなるスマートフォンとはどのような性質を持っているのか考えることで、今までにない新しいアイデアにつながります。
いったんまとめ
ここまで、5W1HのうちWhy, Who, Whereを使った方法を紹介しましたが、共通点に気付きましたでしょうか。
これらは、実は同じ手順を踏んでいます。
既存の商品・サービスについて、ひとつの切り口(例えば ”Why”)で分析する(=A群)
A群になかったものを洗い出す(=Not A群)
既存の商品とNot A群を掛け合わせたアイデアを考える
この手順さえ頭に入れれば、切り口を変えるだけでアイデアを出すためのテーマ(○○○ × スマホ)をいくつも作ることが可能となります。
ところで、このフレームワークで注意すべきことが一つあります。それは、最初の手順となる既存商品・サービスの分析で、どれだけ多くのキーワードを出すことができるか、です。
これによって、最終的なアイデアがどれだけ「新しい」かが変わります。最初の分析では、とにかく思いつく限りを全て出し切るように心がけましょう。
この後のWhen, What, Howについても同じ方法を使います。それでは続けてみましょう。
(4)When:いつ?を変えてアイデアを出す
既存のスマートフォンがよく使われているのはどんな「時」でしょうか。思いつく限り洗い出しましょう。
・朝食中
・通勤中
・家事の合間
・寝る直前
・リモート会議中
・授業中
などが出てくるのではないでしょうか。
次にそれ以外の「時」とスマートフォンと掛け合わせます。
それぞれの「時」に特化されたスマートフォンを考えることで、今までにない新しい性質を持ったものを思いつきやすくなります。
・映画を見ている時に使う × スマートフォン
・シャワーを浴びながら使う × 〃
・寝ている時に使う × 〃
・飲み会している時に使う × 〃
(5)What:なにを?を変えてアイデアを出す
既存のスマートフォンは「なにを」ユーザーに提供しているのでしょうか。ここでは、モノや機能など見えるものにフォーカスして挙げていきましょう。
・大きな画面
・鮮明な画像
・カメラ
・Bluetooth
・四角い筐体
ここで、提供している「価値」について挙げてしまうと、前述の「Why」と重複してしまうので、注意が必要です。
次に、挙げられたモノや機能をベースに、足し算もしくは引き算をします。これが大胆な足し算、引き算であればあるほど、新しいアイデアにつながります。
・画面がない × スマートフォン
・一眼カメラ付き × 〃
・通信機能が一切ない × 〃
・六角形の × 〃
もちろん、この時点では中身(体験)のないただの思いつきに過ぎません。それぞれのモノがユーザーにもたらす体験を想像し具体的に思い描くことができて初めてアイデアとなります。
例えば、「耳につけられて音だけで情報をやり取りできる、画面がないスマートフォン」といった感じです。
(6)How:どのように?を変えてアイデアを出す
最後に、「どのように」入手するのか?使うのか?などを変えていきましょう。これまでと同様に、まずは既存の商品・サービスにおける手順を洗い出します。
スマートフォンを例にすると以下のようになります。
・携帯電話回線の契約時に購入する(入手し、使用を開始する手順)
・記憶されたアドレス帳から、相手を探して選択し、タップして電話する(電話をかける手順)
・気になったアプリをストアで検索し、ダウンロードして使用する(アプリを発見し、使用する手順)
それではこれらを変化させてみましょう。
・自動販売機で購入し、すぐに使用できる × スマートフォン
・見るだけで希望の相手に電話をかけられる × 〃
・必要なアプリは常にダウンロードされている × 〃
HowはWhatと異なり、変化させた時点でユーザーの体験を表していますので、このまま新しいアイデアとすることができます。
まとめ
以上、この記事では5W1Hを使用したアイデアの出し方を紹介しました。
これは6種類の切り口でアイデアを考える方法ではありますが、実はそれぞれの切り口に同じ手順を適用しているに過ぎません。
よって、5W1H法は誰にでも馴染みやすく、簡単に数多くのアイデアを出すことができるフレームワークといえます。
革新的な商品・サービスを考えるための第一歩は、普段考えないようなアイデアを効率よく大量に出すことです。
まずは一つ一つのアイデアの評価を行わず、5W1H法のフレームワークを利用してどんどんアイデアを生み出してみることをおすすめします。