ビジネスの現場で、デザイン思考という考え方が注目を集めるようになりました。
しかし、デザイン思考は万能な考えではありません。
この分野に応用するときにはうまくいかない。
デザイン思考のプロジェクトを組むときの人材確保が大変。
低コストで使えると思われてるけれど、意外とコスト(時間とお金)がかかる。
などなど、デザイン思考には欠点やうまくいかない時の理由、リスクがあります。
この記事では、デザイン思考を使っているコンサルタントにインタビューし、デザイン思考の欠点やリスクなどをまとめました。
企業でデザイン思考を使ったプロジェクトを進めた時、どのような問題や欠点にぶつかったことがあるのか?
など、現場で使ってみてわかったデザイン思考の欠点も紹介していますので、参考になれば幸いです。
デザイン思考に向いていないトピックもある
デザイン思考は、人間の関わることだったらこの思考を使って、解決に近づくことができます。
なぜならデザイン思考の基本的なプロセスは、インタビューを通じて問題を探し、チームでアイディアを見つけて形にし、ユーザーにテストしてもらうことだからです。
ただ、デザイン思考を使うのに向いていないトピックもあります。
明確の答えが存在しているトピック、幅広いアイディアを集める必要がないトピック、問題を解決するために時間やコストをかけるメリットが小さいトピックです。
たとえば、スマートフォンやパソコンのCPUをアルゴリズムで高性能化するというトピックは、デザイン思考を使うのに向いていません。
CPUの高性能化は出す答えが決まっていますし(例:以前のモデルよりも速くする)、人間の気持ちを考えなくても大丈夫です。
同じように「旅行の飛行機の乗り継ぎ方法を決める」など選択肢の少ないものに対して、7〜8人の人数をデザイン思考のプロジェクトチームを組んで決めるのも向いていません。
またデザイン思考はだいたい7〜8人のプロジェクトチームを組んで、課題を探ってアイディアをさぐる思考方法です。
たとえば、7〜8人の人数が半年間かけてウェブサイトの適切な色の検証をしたりしたら、「こんなことに人数と期間をかけて検証するな!」と会社内で批判を浴びてしまうでしょう。
場合によっては、「デザイン思考は欠点が大きくて、使えない考え方だ」と社内で決めつけられてしまうかもしれません。
なので、デザイン思考は解決するとインパクトの大きいトピックに向いています。
裏を返せば、ある程度の人数が長期間に渡って問題解決するので、このコストに見合うトピックでないと向いていないと言えるでしょう。
費用がかからないと言われてるけど、実は一定のコストがかかる
デザイン思考は低コストで検証するから安いと言われますが、実は人件費などのコストがけっこうかかります。
デザイン思考は、初期段階から顧客検証しつつ進めるので、従来の方法と比べて低コストだと言われています。
ポイント:従来の開発予算を大きくかけて開発し、マーケットに出して受け入れられなかった時や開発フェーズの後半で大ゴケした時と比較した場合。
この場合と比べると、デザイン思考は初期段階から顧客テストを進めるので、低コストだと言われる。
たしかにその考えは合っているのですが、全く費用がかからないと考えてるとデザイン思考はうまくいかないです。
たとえばデザイン思考のチームを社内で7人で組んで、半年間取り組んだとしましょう。
他の仕事の合間をぬって、月の半分の業務時間をもらったとします。
7人×8時間/日 x 20日/月 x 6ヶ月 x 50% =3,360時間
これだけの労力がかかるので、決して安い投資ではありません。
またデザイン思考をプロジェクトには、各部署から仕事のできるエース級の人材が出されることが多いです。
エース級の人材を中長期間拘束すると、コストが大きくなります。
しかし、すぐに結果を出せるとも限りません。これはデザイン思考のリスクとも言えるでしょう。
社内でデザイン思考について理解が進んでいないと、「結果が出ていないプロジェクトにコストをかけすぎだ」という批判が起こりやすいです。
デザイン思考を使ったプロジェクトは、顧客リサーチなしに新商品開発をして、開発に2年かけて大きな投資を行い、2億円かかった新商品が大ゴケすることに比べると安いかもしれません。
ただ、時間とお金(人件費)というコストがかかるのも事実です。
専門性と多様性あるメンバーを集める必要がある
デザイン思考は多くのメンバーを組んで考えていくプロジェクトです。
社内でデザイン思考のプロジェクトを組む人材を選ぶときも、
・専門性
・多様性
・性格(リスク許容度・新しいことにチャレンジできるかなど)
・理解力の速さ
・すでにデザイン思考のトレーニングを受けているか?
などなど、その時にそれぞれ専門性があって、知識や経験、興味などがバラエティーに富んでいないと、発想が偏ってしまいます。
結果的に新しいアイディアも出にくくなったしまうのが欠点です。
たとえば旅行代理店で、新しい旅行パッケージについて話し合い、新商品を開発するとしましょう。
この時に関連する部署から、それぞれ専門知識(マーケティング手法など)と業務責任(アカウンタビリティー・営業戦略に沿っているか確認・検討・調整役など)を持って来てもらう必要があります。
関連部署から参加が得られないと知見もかたよります。
デザイン思考で出したアイディアをまとめても、出てない部署から「これはできない」と後でアイディアをひっくり返される可能性もあるからです。
他にも多様性のある人材を集める必要があります。
旅行について話し合うなら、就業形態や旅行頻度、国籍などの多様性を意識すると、幅広いアイディアが出てきやすくなります。
たとえば、あまり旅行しない人が集まると、なかなか実体験に基づく話題にはなりません。
また日本の会社員だけだと休みを取れるのが5月のGWや8月のお盆、年末年始なので、どうしてもかたよった旅行体験になりがちです。
そのためにも旅行系のトピックだと、休みが会社員と違う自営業や違う旅行方法を知っている海外在住経験者を取り入れたほうがいいでしょう。
グループの中で、単一的なグループ(似た志向を持った人々)だと、結果を出すまで速いけど、発想がかたよって新しいアイディアも出にくいです。
一方でグループ内に、多様性のあるグループ(様々な志向を持った人々)だと、結果を出すまでが遅いけれど、発想に多様性があって新しいアイディアも出やすいという特徴があります。
だから、できる限り専門性と多様性を持った人々を集めたほうがいいでしょう。
社内でデザイン思考を使える環境作りが大変
デザイン思考は使いこなせるようになるまで、かなり時間がかかります。
デザイン思考は、専門性と多様性を持った複数人(目安は7〜8人)が集まり、中長期間行われるプロジェクトです。
つまり、デザイン思考を使ったプロジェクトを使おうとしたら、使えるまでに時間がかかるのが欠点だと言えるでしょう。
一人がデザイン思考を身につけるためには、デザイン思考を使うプロジェクトを何回もやって、実践的に使えるレベルになります。
その上でデザイン思考はプロジェクトを組んだチーム全員が使える必要があります。
デザイン思考はだいたい7〜8人のチームを組んで行うので、チーム全員が理解している必要があるのです。
たとえば、デザイン思考のプロジェクトを行っているときに、「How Might We(HMW)」について考えましょう」という言葉が出たら、全員がデザイン思考のこの概念を理解してないと話が進みません。
またデザイン思考のチームは、専門性と多様性を持った人たちを選ぶのが大事なので、社内の各部署や社外からも人材を入れる必要があります。
特に会社でやる場合は、自社の人材だけでは発想できるアイディアが狭くなり、似通ったアイディアばかりになってしまいます。
これを避けるためにも、社外や業界外からチームに人材を入れたほうがいいでしょう。
同じ業界同士だと、思考方法が似ることも多いので、場合によっては業界外から人材を引き入れたほうがいいこともあります。
ただ、外からデザイン思考を使える人を選んでくるのも大変です。
デザイン思考を実行しようとするまで、かなり時間がかかります。
長期的な視点に立って、社内にデザイン思考を根付かせる仕組みが必要です。
難しい外部人材の確保
会社でデザイン思考を使ってプロジェクトをやる時は、社内だけではアイディアがかたよるので、社外から人材を入れる必要があると言いました。
また、外部の経験豊富な専門家を受け入れることで、幅広い経験を持ってきてもらえます。
たとえば、旅行代理店が民泊を使った商品開発をするときに、社内だけだと知見がたりません。
だから元Airbnb(民泊仲介サイト)出身の人材を招いたりすることで、自分たちの商品開発のアイディアを広げられるでしょう。
そのために外部専門企業にサポートしてもらったり、外部コンサルタントに依頼したりする方法が考えられます。
この様な高度な専門知識や経験が必要とされる外部人材では、デザイン思考を会得している方を見つけるのは容易ではありません。
また、デザイン思考を使って上記の様な新規事業開発を実施する際、すぐに結果を出しづらいなかで費用の高い外部専門企業や外部コンサルタントに依頼することになります。
高いコストにもかかわらず、結果を出すのに時間を要するため、日々コストと戦っている社内からはコストカットの圧力が強くかかってきます。
なので、デザイン思考のプロジェクトは、社長直下の組織として守る必要(リングフェンス)が求められると言えるでしょう。
声の大きいヒトに引っ張られやすい
デザイン思考をやる時におちいりがちな欠点に、声の大きい人に引っ張られやすいという特徴があります。
想像してみてください。たとえばアイディアを絞り込んでいる時に、「そんなアイディアはダメだ!」と自分の上司が強く言ってきたら、その話し合いはどうなるでしょうか?
部下は次に発言することを恐れてしまい、上司に認められる意見が通りやすくなってしまいます。
また同じくよくあるパターンに、上司と部下が同じデザインスプリントに参加して、実力を発揮できないケースもあります。
上司と一緒にいる部下が萎縮した空気の中でデザイン思考を行い、のびのびとしたアイディアが出ず、上司が「やっぱりデザイン思考は使えない」と判断されるケースがありました。
この場合だと、デザイン思考に欠点があるのではなく、自分たちがデザイン思考のうまくいかない段取りを組んでしまっているのが問題です。
デザイン思考を使ったプロジェクトチームを組むときに、上司と部下が一緒になるのは大きなリスクです。
これではせっかくいろんな人をデザイン思考の場に集めたのに、多様性に富んだアイディアが出てきません。
だから話しやすい環境を演出できるファシリテーターを入れて、上手にみんなから意見を引き出す必要性があります。
決められたタイムスケジュール通りに話を進める「司会」より、トーク系のバラエティー番組などで見る「MC」をイメージしたほうが近いかもしれません。
番組に参加してるゲストに上手に話を振って、うまく全員から話を引き出し、その中で盛り上がった話をまとめる。
そんなファシリテーターの存在がデザイン思考では欠かせません。
またファシリテーターは、参加者に「自分はこの場所で安心してアイディアを出せる」という心理的安全を確保できる人であるべきです。
声の大きい人に引っ張られてデザイン思考のプロジェクトが失敗しないためには、いいファシリエイターが不可欠だと言えるでしょう。
最後に
デザイン思考は一見、簡単そうに見えます。
しかし気をつけないと、「うまくいかなくなる欠点」と言えるポイントがいくつもあるので、注意が必要です。
最初の「デザイン思考に向いていないトピックがある」は、よくデザイン思考の書籍やウェブ記事でも指摘されます。
ただ、インタビューしたコンサルタント曰く、「意外と時間や費用のコストがかかったり、メンバー選びが大変だったりするのは、現場で試してみないとわからない」そうです。
この記事が、これからデザイン思考を試される方の役立てれば幸いです。
アルトプロ(AltPro)では、「デザイン思考とは一体どんなものか?」という記事も書いています。
わかりやすく噛みくだいて書いているので、よかったらこちらもどうぞ。
【関連記事】